珈琲主義 No.1〜10


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2000年7月1日
Phase.1 珈琲こそ私の原点

  中学生のころ小遣いを貯めて電動の珈琲メーカーを買ったのを皮切りに、自らの手でレギュラー珈琲を淹れるようになった。最初は粉にしたものを買ってきていたが、 程なく手回しの珈琲ミルを入手することとなる。

  高校生のころ日常的に喫茶店に行くようになると、好んでストレート珈琲を注文していた。このころはまだ、 少量ではあるが砂糖を入れて飲んでいた。

  珈琲メーカーが不味いと思い始めたころ、見た目の良さからサイフォンを入手することとなる。しかし、これも構造上、どうしても珈琲が水っぽくなってしまうことから、 すぐに限界を感じるようになる。

  大学時代ほど、より良い珈琲を求めて行脚した時期はなかった。友人グループ6、7人で喫茶店に行き、全員が違うストレート珈琲を注文し、私がそれを目隠しでテイスティングして、 全部を完璧に言い当てたといったエピソードもある。(今はストレートコーヒーを飲むことが少なくなったので、多分むずかしいだろう)

  最も手軽で、それでいて家庭でもクオリティーの高い珈琲の淹れられる道具は、ペーパードリップである。奇をてらわない、かつ、横着しないやり方こそが、 好ましい結果を生むということであろうか。しかし、これには、当然のごとく技術が要る。いきなり大量の熱湯を注いだり、高いところから湯を落としては駄目である。 豆の鮮度、挽き方、湯の温度、落とし方、蒸らし時間、抽出量、抽出時間など、すべての理想的な条件が整ったときだけ、最高の結果が得られる。これはもう立派な科学である。

  しかし、この中でも最も重要で、かつ、絶対にクリアしなければならないのは、豆の鮮度である。

  良い珈琲を淹れるために必要な条件を、標語的に言えば、「85%の豆の鮮度、5%の技術、そして10%のまごころ」である。珈琲というのは実にデリケートなもので、 淹れる人間の機嫌が悪いと、やはり機嫌の悪い珈琲になるものである。以前入り浸っていた珈琲店で、店主が体調を崩していることを珈琲から察したことがあるくらいである。

  現在自宅では、ネルドリップを基本とし、補助的にペーパードリップを併用している。やはり、ネルこそが珈琲を漉す究極の素材ではなかろうか。 挽く道具としては、回転式のグラインダーを使用しているが、文字通り珈琲を「挽く」というプロセスは、熱を発生するので、実は好ましくないのである。 そこで、理想的な道具は、挽くのではなくカットする「珈琲カッター」と呼ばれるものであろう。しかし、家庭用としては少々高価なので、手が出せずにいる。

  このようにして、すべてのプロセスに気を配り、心をこめて淹れる珈琲でも、やはり満足できない何かがある。長年珈琲と付き合ってきて、私の得たひとつの結論、 それは、一番美味しい珈琲とは、人に淹れてもらった珈琲であるということ。そこで、今日もまたより良い珈琲、より良い環境を求めて、珈琲店行脚を続けることとなるのである。

2000年7月7日
Phase.2 日本の文化程度の低さ

  初めに言っておかなければならない悲しい事実は、およそ世の中の喫茶店と呼ばれる店のほとんどすべてが、基本レベルすらクリアしていないという日本の惨状である。

  同様に、世の中で売られている珈琲豆の大多数は、製品としてふさわしいレベルには至っていない。いかに日本の珈琲文化のレベルが低いかということの証左であろう。

  珈琲は農作物であり、生鮮食料品である。粉にしたものをパックして売っているということ自体、信じがたいことではあるが、それを招いている張本人は、 実はそのようにクオリティーの低い商品を何の疑いもなく受け入れてしまっている我々消費者なのである。

  例えば、このようなことを想像してみてほしい。 朝の食卓にそのまま出せるようにと、卵の殻を割り、丁寧に箸で溶いたものを真空パックにしてスーパーで売っていたら、あなたはそれを買うだろうか。 挽いて真空パックにした珈琲を喜んで買っているのは、それとあまり違わない行為なのだ。我々消費者に、珈琲は生鮮食料品という認識がないから、 平気でそういった物が製品化されているのだ。

  欠くべからざる食料品ではなく、たかが嗜好品じゃないかとお思いの向きもあるであろうが、その単なる嗜好品に対して繊細な配慮や、 熱い思い入れを持ち得ないところに、文化程度の低さが露呈しているとは思わないだろうか。

  喫茶業界では、本当にクオリティーの高いものを、手間暇かけて提供しようとすると、商売が成り立たないという厳しい現実がある。 その悲惨な窮状を、志と情熱を持って克服したすばらしい珈琲店が、世の中には確かにある。そういう店をより繁栄させるためには、何よりも消費者である我々が、 品質を見抜く目と舌を持つことではないだろうか。

2000年7月22日
Phase.3 ツウって何?

  珈琲に砂糖やミルクを入れて飲むのは、邪道なんだろうか。

  確かに、珈琲本来の風味を楽しむためには、何も入れないのが良いと思う。ブラックだからこそ、自然の甘味というものを実感できると思う。 しかし、こう考えるのは私の嗜好なのであって、砂糖を入れて一番おいしいと感ずる人は入れればいいし、ミルクを入れてこそ初めて生まれる味わいもあると思う。 本当に味に貪欲な人は、人の嗜好を否定しないし、何が本道などという狭量な考え方は取らないものだと思う。 もとより嗜好品なのであるから、各自が最も満足できる方法で味わうのがよいのは言うまでもない。これは、珈琲を淹れるための基本的要領や技術とは独立した次元の話である。

  私は、あくまでも素材の本質的な味を探究したいと考えるのだが、これはひとつのアプローチにすぎず、 ワインが、料理とのマリアージュという場面においてその魅力を花開かせるように、珈琲も、例えばお菓子とのコンビネーションによって新たな味を生むということもある。 要は、自分なりの切り口で探求を続けることが、嗜好品を極めるカギではないか。だから、どんな飲み方がツウであるといったスタイル論は、意味がないのである。

  ただ、犯してはいけない過ちというものも確かにある。例えば、鮮度の落ちた豆を使うといったことである。 紅茶に珈琲用のクリーミングパウダーや液状フレッシュクリームを入れるとか、温めた牛乳を入れるといったこともこれに属するだろう (しかし、温めた牛乳の乳臭さと紅茶の香りのハーモニーが好きという人は、それはそれで構わない。ただ、明らかに紅茶の香りの微妙なニュアンスは犠牲になるが)。

  そのように、下手な先入観を差し挟まず、ただ好きなものを好きなように追求してゆけば、最後は自ずと味覚が鋭敏になり、 知らず知らずのうちに素材本来の味わいを追い求めるようになっているはずだ。そういう真摯な探究心こそが大切であり、それをツウと呼ぶかどうかは、 外野に任せておけばいいではないか。

2000年8月20日
Phase.4 私の珈琲店ランキング

  私が今までの人生で出会った数多くの珈琲店の中で、特に愛しているお店を紹介します。いずれも珈琲のクオリティーは抜群、インテリアも私好みのお店ばかりです。 但し、遠隔地のため、中には数年訪れていないお店もありますので、現在の状況を把握しきれていないところもあります。最近の様子をご存知の方、お教えくださればうれしいです。 なお、ここに挙げた以外でも、私が日頃通っている所など多数ありますが、残念ながらランクインに至るお店はありません。

第1位 レジュ・グルニエ CAFE LES JOUX GRENIERS 東京都港区南青山5丁目
  私の中でおそらく永久に朽ち果てることのないベスト・カフェです。ネルドリップの珈琲は、いつも安定したクオリティで、一点の曇りもない、威風堂々とした味わいです。 芸術家の住むパリの家の屋根裏部屋といったインテリアで、まるで友達の家に遊びに来たかようなアットホームさと共に、とりたてて飾らないことが究極のお洒落であるということを 無言のうちに主張する極めてソフィスティケートされた空間です。少し心躍りつつ、それでいて、ああ帰ってきたという心境にさせてくれる不思議なお店。決して押し付けがましくない、 しかし必要最小限に行き届いた接客は、実に都会的でもあり、かつ温かい。ロケーションも、これ以上の場所は絶対にないと思います。

第2位 レジュ・ドゥ CAFE LES JEUX 2 東京都渋谷区神南1丁目 (*閉店
  1位レジュ・グルニエの2号店です。珈琲の味は、グルニエと全く同じで、極めて安定しています。インテリアも、基本コンセプトは同じながら、こちらのほうが若干オープンな 雰囲気があります。公園通りの渋谷公会堂前からファイヤー通り方向へ少し下った、目立たないロケーションながら、常に賑わっています。 小物のチョイスやレイアウトとか、音楽の選曲とか、ディティールに際立ったセンスを感じます。

第3位 カフェ・ド・パルファン CAFE DE PARFUM 東京都世田谷区北沢2丁目
  小田急線・東急井の頭線下北沢駅から程近いところにあります。下北沢らしい細い路地に面した一軒家のお店で、ちょっと入りづらい雰囲気も。 周辺の新しい店とは、一線を画した感じがあります。もちろんネルドリップの珈琲は極めて濃く、しかし嫌味はありません。

  ※2階建ての新しい建物に建て替わってしまい、以前とは趣が変わってしまった。

第4位 アンセーニュ・ダングル CAFE ENSEIGNE D'ANGLE 東京都渋谷区千駄ヶ谷
  原宿駅の喧騒から離れ、千駄ヶ谷方向に10分ほど歩いたところです。皇室専用ホームのもう少し先です。 ここは一見の客が絶対に来ないロケーションで、それだけにとても落ち着いています。ネルドリップの珈琲のクオリティももちろん申し分なしです。

第5位 カフェ・ド・ラペ CAFE DE LA PAIX 東京都港区南青山1丁目
  乃木坂駅の近くですが、普通のマンションの1階です。場所柄、とてもゆったりしています。テラス席(マンション中庭)もあり、お洒落。 ネルドリップの珈琲のクオリティも実に安定していて、文句のつけようがありません。

第6位以降
  あとは甲乙つけがたいので、順位は記しません。

カフェ・ド・ラペンテ 神戸市灘区大戸平町1丁目
  関西地区で唯一、私が完璧と思える珈琲店です。伺うたびにオーナーとお話をしますが、その生活スタイルの優雅さがそのまま現れているようなお店です。 ネルドリップの珈琲はいつも安定していて、基本技術を極めると、空気までが洗練されるのだということを体現しているようです。 フードメニューも採算を度外視しているとしか思えないクオリティで、こちらも楽しみのひとつ。

カフェ・ド・ヨシユキ 広島市中区袋町
  地元ではかなり有名なお店のようです。店の入り口に「高校生以下お断り」とはっきり謳っています。大きな声で騒いだら、店主に叱られます。 客商売としては、少々やり過ぎでは?と思いますが、確固たる珈琲のクオリティが文句を言わせません。初めて訪ねたときにカウンターに座り、デミタスを注文し、 まずスプーンにすくって色を見、次にじっくり香りを嗅いで、しばらく飲まずにいたら、カウンター越しに睨まれないまでもちらちらと意識されました。 接客態度というものにもかなり重点を置く私でも、ここは別格という思いです。

大坊珈琲店 東京都港区南青山3丁目
  職人芸という言葉がまさに相応しい店。カウンターの中でハンドピックをしている店主の姿が印象的。場所柄、お洒落な客が多いものの、もう少し一見客がいてもいいはずなのに、 いかにも「来慣れた」人が多いです。内装など洒落っ気はなく、質実剛健といった雰囲気。

カフェ・トロワ・シャンブル 東京都世田谷区代沢5丁目
  内装はかなり年季の入った感じで、しっくいの壁は黄ばみ、所々剥げ落ちたりしています。下北沢駅から程よい距離にあり、目立たないこともあり、隠れ家的ロケーションと言えます。 それだけにとても落ち着けて、かつ本物の味が楽しめる贅沢な空間と言えるでしょう。

2000年9月2日
Phase.5 フラペチーノの誘惑

  我が家から徒歩10分以内の場所に「スターバックス・コーヒー」があるというのは、実はミーハーな私にとっては少々自慢だったりする。 このサイトにちょっとお馴染みの方は、私がいつも物事の本質を追求する偏執狂、あるいは流行を鼻で笑う頑固親爺のように思っていらっしゃるかもしれない。 しかし、流行りものでも良いものは良いし、それどころか、良くなくてもとりあえず流行だけは押さえておかないと不安になったりする。そういうごく一般的な日本人なのだ。

  過去の経験あるいはそこから作られた自分の信念だけに固執して、新しいものを否定し始めると、人は頑固になった、年をとったと言われる。 確固たる信念を持ちつつ、新しいものもすべて受容して常に信念の軌道修正を心がける姿勢こそ、私が理想とするものである。

  さて、テーマに戻ろう。スターバックスが日本に上陸し、東京で勢力を伸ばしつつある頃、その評判を耳にするたび、「ふん、所詮一過性の流行りものだろう」 などと思っていた。しかし、実際に行ってみてそのイメージは一変した。確かに「いま流行り的」スタイルをしているし、客層も軽はずみな感じだ。 コーヒーのクオリティも、まあ某有名180円チェーンよりは少しはましかな、という程度(※注)。また値段も、高くはないが、そこそこする。中途半端な感じだ。

※注:某チェーンの名誉のために言っておくが、私は180円であれだけのことを達成している企業努力はすばらしいと思っているし、ブレンドはともかく、エスプレッソは、 その辺のイタ飯屋で500円とか取られる代物より、はるかに美味い。

  それでは、スターバックスの良さとは何か。実は私にもうまく言えないが、店がトータルで醸し出しているアメニティとでも言おうか。

  流行りものが、自ら流行りものであることを強く意識したとき、「我々が時代の先導者」的傲慢さ、高圧的雰囲気が自然と醸成されてくる。 それが、鼻につく主原因なのだが、スターバックスにはそれが感じられない。何だか、「皆で力を抜いて楽しんでます」的な空気が流れているのだ。 それでいて、今何が受けるのかをきっちりと押さえているから、「近所の店的安っぽさ」はなく、極めて都会的で、適度にエクスクルーシブで、おしゃれだ。

  インテリアに妙に惹かれるものがあると思ったら、それもそのはず。なんと私の好きなSAZABYが経営母体だというではないか。 あの、心地よく体の沈むソファー、我が家にも一つ欲しいなどと思ってしまう。

  コーヒーそのもののクオリティだけで言えば、決して足を運ぼうとは思わない。しかし、初めてアイス・スターバックス・ラテを飲んだとき、思わず唸ってしまった。 「コーヒーとミルクのバランスが絶妙ではないか!」これを味わうためだけにここに来るのも悪くない。しかも、「ミルク多めに」なんて注文も聞いてくれるらしい。

  夏の暑い日、さすがにランバ・フラペチーノには二の足を踏んでしまうものの、エスプレッソ・フラペチーノは苦味がきいていてとてもよい。最近のお気に入りである。 「かき氷かアイスを食べたいが、余計に喉が乾きそうだ。ファースト・フードのシェイクも甘すぎていけない。」そんな時、このエスプレッソ・フラペチーノが最高だ。 なお、コーヒー・フラペチーノはかなり甘いので、注意が必要である。

  また、この店で嬉しいメニューのひとつに、子供用ドリンクなるものがある。特にジュースは、普通のフレッシュジュースが、オレンジなどをスクイーズした、 かなり酸味の強いものであるのに対し、子供用はマイルドである(バヤリースのようだ、という意見もあるが)。我が家のチビは、いつもこれを所望する。180円というのも、親にとって嬉しいではないか。

  今、そしてこれからの時代、どんな店、どんな商品、どんなサービスも、最も大切なのは、「バリュー・フォー・マネー」であることだ。高くて質が良いのは当たり前だが、決して安ければよいというものでもない。 バブル崩壊後、価格破壊を歓迎する論調が多いが、私は、価格破壊は、結果的に経済全体を疲弊させるだけだと思っている。もちろん、不必要なコストを削減すべきなのは当然であるが、 価格競争が激化するあまり、モノやサービスの質が犠牲になり、また企業経営が圧迫されるようでは、企業にとっても、我々消費者にとっても不利益である。

  安かろう悪かろうではダメだ。払う金に見合うだけのリターンがあれば、喜んでサイフを開く。それが経済の大原則であるし、それを誠実に遂行している企業、店が私は大好きだ。

  さあ、暑い日が続いているうちに、フラペチーノに会いに行こう。

P/S:サイズを指定するとき、「中くらいのやつ」とか「M」とか言ってる貴方!!あれは、TALL(トール)です。

2000年10月18日
Phase.6 缶コーヒーをテイスティングする〜その1:無糖ブラック編〜

  缶コーヒーのテイスティングをしてみた。いずれも自販機やコンビニで容易に入手できるものである。私の認識では、缶コーヒーは「珈琲」ではなく、「缶コーヒーという独自の飲み物」だが、 最近ではかなり本物志向のものが増えてきて、下手な喫茶店で飲むより余程ましなものも増えた。いずれも冷蔵庫で冷やした状態でテイスティング。

  なお、評点は、各項目につき、A:12.5点、B:10点、C:7.5点、D:5点、E:2.5点として合計した。但し、「総合的なコーヒー感」項目のみ倍配点。

  また、参考に、原材料名を記載した。コーヒー以外に香料等を添加している製品もあるが、必ずしもコーヒーだけで作っているから良いということではない。 所詮本物の珈琲とは違うのであるから、製品としての完成度が高ければ、香料使用の有無は大した意味を持たないと考える。

1.GEORGIA STATUS BLACK/COCA COLA
香り: 香ばしく、甘味を感じさせる。秀逸。(A)
口当たり: やわらかく、まろやか。にごりなし。若干粉っぽさを感じなくもない。(A)
苦味: ほどほどで心地よい。(A)
酸味: ない。少しはあった方がよいかもしれない。好みは分かれよう。(C)
コク: しっかり感じる。全体的に軽めではあるが。(B)
後味: すっきり。残らない。(A)
総合的なコーヒー感: 抜群(A)
評点: 92.5点

原材料: コーヒー、香料

2.WONDA BLACK&BLACK SILVERFOX BLEND純水ドリップ/ASAHI
香り: すっきり、かつ芳醇。とてもコーヒーらしい。(A)
口当たり: 深みがあって、かつクリーン。(A)
苦味: やわらか。とげなし。渋味はほとんどなし。(A)
酸味: しっかり主張するが、苦味、甘味とよく調和。(A)
コク: 切れがよいかわりにコクは今ひとつ。これが持ち味だろう。(C)
後味: 実にコーヒーらしい。少し酸を残す。(B)
総合的なコーヒー感: 鼻から息を抜いたときのコーヒー感は秀逸。(A)
評点: 92.5点

原材料: コーヒー、香料、酸化防止剤(ビタミンC)

3.WONDA BLACK&BLACK/ASAHI
香り: 最もコーヒーらしい。実に香ばしい。甘味をほうふつとさせ、なおかつクリーン。(A)
口当たり: 芳醇かつ洗練。ふくらみあり。(A)
苦味: えぐみ感ゼロ。若干渋味を伴うが、それもコーヒーらしい。(A)
酸味: ほとんどなし。酸味の好きな人には少々物足りないか?(C)
コク: 十分。落ち着きがあって、独自の風格を感じる。(A)
後味: わずかに渋味がへばりつく。(C)
総合的なコーヒー感: 抜群(A)
評点: 90点

原材料: コーヒー、香料、酸化防止剤(ビタミンC)

4.FIRE原種豆 直火ブラック/KIRIN
香り: 香ばしい。甘味さえほうふつとさせる。(A)
口当たり: すっきり洗練。(A)
苦味: 強くない。クリーン。(B)
酸味: やんわり口全体に広がる。好みは分かれるだろうが、これが持ち味だろう。(C)
コク: 十分。ややさらっとしている方。(C)
後味: 良い。(A)
総合的なコーヒー感: 抜群(A)
評点: 87.5点

原材料: コーヒー

5.BOSS BLACK/SUNTORY
香り: 香ばしく、清々しい。にごりなし。但し、時間が経つと少しほこりっぽくなる。(B)
口当たり: ほろっと甘く、香ばしい。(A)
苦味: えぐみがなく、クリーンでやさしい。(B)
酸味: 少し感じるが、上品。マイルド。(C)
コク: 深みなく、さらっとしている。しかしこれが持ち味だろう。(C)
後味: さらっとあっさり、すっきりしている。(B)
総合的なコーヒー感: 良(A)
評点: 82.5点

原材料: コーヒー

6.BLACK無糖/UCC
香り: コーヒーというより、少し酸化したコーヒー豆の香りがする。タバコの灰のようでもある。(D)
口当たり: やわらかめ。黒糖から甘味を取り去ったようなあまり心地よくない味。(D)
苦味: しっかりとあるが、粗暴。(C)
酸味: ほとんど感じない。(C)
コク: まあある方。(B)
後味: あまり良くない。えぐみを残す。(D)
総合的なコーヒー感: 凡庸(C)
評点: 55点

原材料: コーヒー

総評
  あくまでも個人的見解ではあるが、最近は各社かなり実力が接近してきた。 以前であれば、70点以上つく製品などほとんどなかっただろう。今回上位にランクしたメーカーでも、以前はひどい製品を送り出していたものである。 こうして並べてみると製品ごとに持ち味が少しずつ違うことがわかる。 後発品がより洗練された味わいになってきているところがビール業界と似ており、味覚が時代により移り変わっている証拠だろう。 指向が古く、変革できない所は、今のところブランド力で支えられていたとしても、次第に取り残されてゆくだろう。老舗ほど意識改革を期待したい。 なお、特定のメーカーを擁護したり非難したりすることが目的ではもちろんなく、 また、美味しいか否かという感覚だけで採点しているわけでもないので、私が低い点をつけた物でも、 もちろん美味しいと感じる人は多いだろう。

2000年10月29日
Phase.7 缶コーヒーをテイスティングする〜その2:すっきり系ミルク入コーヒー編〜

  今回は、ミルク入り缶コーヒーの中でも、比較的すっきりした味わいのものを中心にテイスティングをしてみた。いずれも冷蔵庫で冷やした状態でテイスティング。

  なお、評点は、各項目につき、A:12.5点、B:10点、C:7.5点、D:5点、E:2.5点として合計した。但し、「総合的なコーヒー感」項目のみ倍配点。

  また、原材料名は、缶に表示されている順番に記載した。周知の通り、原材料は、含有量の多い順に表示することになっているから、例えば、牛乳、コーヒー・・・の順に表示されているものは、 コーヒーよりも牛乳の含有量のほうが多いということである。

1.FIRE 深煎りビター/KIRIN
香り: 苦味、渋味を感じさせる。引き締まっている。少々えぐみ感を想像させる。(B)
口当たり: シャープで、かつ重い。後味も引き締まっている。(A)
苦味: ミルク入り製品の中では一番苦味が強いのではないか。しかし、嫌味はない。(A)
甘味: ほとんど感じさせない。普通のミルクコーヒーのつもりで飲んだら、肩透かしを食う感じかもしれない。しかし、この点がこの製品の最大の持ち味だろう。(B)
コク: 表面上の重さに比べ、意外と深みはない。(C)
後味: 渋味を残すが、心地よい。(B)
総合的なコーヒー感: 抜群。(A)
評点: 87.5点

原材料: コーヒー、牛乳、砂糖、脱脂粉乳、香料、カゼインNa、乳化剤

2.NESCAFE SANTA MARTA/NESTLE(大塚ベバレジ)
香り: 真っ先に苦味を感じさせる引き締まった香り。(B)
口当たり: 落ち着いた苦味と甘味のハーモニー。(B)
苦味: 引き締まっている。かなりしっかりした苦味。(A)
甘味: まとわりつかず、上品。(A)
コク: 十分。(B)
後味: 少し残る感じだが、嫌味はない。(C)
総合的なコーヒー感: 良。(B)
評点: 82.5点

原材料: コーヒー、砂糖、全粉乳、脱脂粉乳、デキストリン、乳化剤、香料

3.GEORGIA FINE BITTER/COCA COLA
香り: クリーンで、少し果物のような不思議な甘い香りあり。(B)
口当たり: 苦味優勢。但し、次いで甘味も感じる。全体として締まった印象。(B)
苦味: シャープで心地よい。渋味が少しまとわりつく。(B)
甘味: ひかえめで好印象。バランスよし。(A)
コク: 十分ある。(B)
後味: 収斂性のある渋みが残る。好みは分かれよう。(C)
総合的なコーヒー感: 良。(B)
評点: 80点

原材料: コーヒー、砂糖、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、香料、デキストリン、乳化剤

4.ROOTS REAL BLEND/JT
香り: 引き締まった苦味を感じさせ、かつ甘味も感じさせる香り。(B)
口当たり: やわらか。丸い。コーヒー自体はかなりえぐみがあるが、ミルクでうまくごまかすことに成功している。(C)
苦味: 強くない。質は良い。(B)
甘味: 控えめで好印象。(B)
コク: 適度。(C)
後味: 嫌味はない。(C)
総合的なコーヒー感: まずまず。(C)
評点: 67.5点

原材料: コーヒー、砂糖、濃縮乳、牛乳、香料、乳化剤、カゼインNa、酸化防止剤(V.C, V.E)

総評
  普段自分が好きで飲んでいるものでも、このように多角的に評価してみると意外と点が低かったり、逆に意外な発見があったりした。 甘味の強い、弱いなどは、特に嗜好差が激しい点だと思われるが、今回の分野では不必要に甘味がまとわりつくようなものはなく、 概して味わいは接近している。最近のすっきり嗜好を反映してか、このタイプの製品の実力が相対的に上がってきているように思う。 また、ここでも全体的に新規参入組(元来コーヒー以外を本業とするメーカー)の健闘が光っている。

2000年11月9日
Phase.7-2 缶コーヒーをテイスティングする〜その2−2:すっきり系ミルク入コーヒー編〜追補

5.ROOTS CLEAR BITTER/JT
香り: 甘苦。(C)
口当たり: まず甘味がくるが強くなく、適度。苦味がその後をすぐ追う。(B)
苦味: えぐみ感はあるが、インパクトを弱めてうまく隠している。適度な苦味。(C)
甘味: 穏やかで、引き締まっている。(A)
コク: 十分。(B)
後味: 渋味がまとわりつく。これがコーヒーらしさと勘違いしているようなまとめ方である。その点、印象が悪い。(D)
総合的なコーヒー感: まずまず。(C)
評点: 67.5点

原材料: コーヒー、砂糖、濃縮乳、牛乳、脱脂粉乳、香料、乳化剤、カゼインNa、酸化防止剤(V.C, V.E)

2000年11月12日
Phase.8 缶コーヒーをテイスティングする〜その3:リッチ系ミルク入コーヒー編

1.FIRE 深入りレギュラー/KIRIN
香り: 甘さと苦味の半々といった香り。特徴は乏しい。(C)
口当たり: 甘味優勢だが、すぐ苦味が追う。無難。(C)
苦味: 引き締まって、少し煙っぽい。(C)
甘味: 抑制がきいている。ミルク入りとしては上出来。(A)
コク: 充分。(B)
後味: 切れ良し。ミルク入りとしてはシャープ。(B)
総合的なコーヒー感: 押し付けがましくないが、しっかり主張はある。(B)
評点: 75点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、脱脂粉乳、香料、カゼインNa、乳化剤

2.BOSS LIMITED/SUNTORY
香り: ミルク感+苦味を彷彿とさせる香り。(B)
口当たり: たっぷりしている。甘味の後ろに酸が控えている。(C)
苦味: しっかりあるが、嫌味はない。(B)
甘味: 抑制がきいている。(A)
コク: 充分。(B)
後味: 切れはほどほど。ミルク入りとしてはシャープな部類。(C)
総合的なコーヒー感: 充実しているが、酸が前に出てくるので、コーヒーとしての満足感は今ひとつ。(C)
評点: 72.5点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、脱脂粉乳、乳化剤

3.FIRE 深煎り「コク」ダブル/KIRIN
香り: キャラメル風の甘い香り。凡庸な印象。(D)
口当たり: 甘味が押す。くどさもあり。(D)
苦味: 力強いが、すっきりしている。(B)
甘味: かなりある。バランスを少し欠く印象。(D)
コク: 濃厚。コーヒーらしい。(A)
後味: 余韻長く、ずっしり。嫌味はないが、口に残る感じ。(C)
総合的なコーヒー感: ミルク入りではダントツ。(A)
評点: 70点

原材料: 牛乳、砂糖、コーヒー、全粉乳、香料、脱脂粉乳、乳化剤

4.GEORGIA PREMIUM BLEND/COCA COLA
香り: 甘い。キャラメルのよう。(D)
口当たり: 苦味が前へ。えぐみ感あり。タバコの煙のよう。(C)
苦味: 品が悪い。しかし強すぎず、ほどほど。(C)
甘味: ほどほど。酸もあるが弱い。(B)
コク: 充分。ミルク入りにしては上出来。(A)
後味: やはりくどい。(C)
総合的なコーヒー感: 良。(B)
評点: 70点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、香料、乳化剤

5.WONDA ブルーマウンテンブレンドEX/ASAHI
香り: 甘苦。従来からよくあるミルクコーヒーの香りを少し引き締めた感じ。(C)
口当たり: 丸みがあり、甘さが前面にくるが、すぐに引く。とても上品。(B)
苦味: 引き締まっている。強くない。(B)
甘味: 嫌味はなく極めて上品。すっきりクリア。(A)
コク: 弱め。(D)
後味: 極めてすっきり。ミルク入りでこの透明感はすごい。(A)
総合的なコーヒー感: 物足りない。(D)
評点: 67.5点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、カゼインNa、乳化剤

6.WONDA CAFE AU LAIT 牛乳30%/ASAHI
香り: ミルクらしく、まろやかな香り。コーヒーの感じもしっかりある。(B)
口当たり: かなり甘味が立つ。牛乳と言うより脱脂粉乳の風味が目立つ。(C)
苦味: ほとんど感じない。(D)
甘味: 強いが、これが持ち味だろう。(B)
コク: 充分。(B)
後味: 甘いがまとわりつかない。(C)
総合的なコーヒー感: 乏しいが、当然であろう。(D)
評点: 60点

原材料: 牛乳、脱脂粉乳、砂糖、コーヒー、乳化剤、カゼインNa

7.ROOTS PREMIUM/JT
香り: 従来型のミルクコーヒーそのまま。(D)
口当たり: まろやか。ミルクがうまく使われている。(B)
苦味: えぐみを感じる。ワイルド。(C)
甘味: 中程度。嫌味はないが、シャープさもない。ぬーっとした感じ。(C)
コク: それほどない。(D)
後味: 比較的あっさり。(C)
総合的なコーヒー感: 劣。(D)
評点: 52.5点

原材料: コーヒー、濃縮乳、砂糖、乳化剤、香料、酸化防止剤(V.C,V.E)、カゼインNa

8.DAIDO BLEND COFFEE HEAVEN/DAIDO
香り: 凡庸なミルクコーヒーの香り。(D)
口当たり: ミルク中心+えぐみ感のある味。(D)
苦味: 粗暴。(D)
甘味: かなり強い。甘味好きには良いかもしれないが。(C)
コク: 適度。飲みやすい。(C)
後味: 甘味が残る。すっきりしない。(D)
総合的なコーヒー感: 劣。(D)
評点: 45点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、脱脂粉乳、乳化剤

9.NESCAFE RICCIO QUALITY COFFEE/NESTLE(大塚ベバレジ)
香り: 従来型の甘い缶コーヒーの香り。甘ったるさが想像される香り。(E)
口当たり: まろやかなミルクのコク。甘ったるい。濃厚さは悪くはないが。(D)
苦味: しっかり主張はするが、後ろに引っ込んでいる。(D)
甘味: 苦味より前面に出ているものの、くどくはない。(C)
コク: ある方。(C)
後味: 少し残る。(D)
総合的なコーヒー感: 劣。(E)
評点: 37.5点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、全粉乳、乳化剤、デキストリン、香料

10.BOSS 7/SUNTORY
香り: 極めて甘い香り。(E)
口当たり: 甘さとえぐみ感のある口当たり。(D)
苦味: まとわりつく苦味と渋味。(E)
甘味: いやらしい。強すぎる。(E)
コク: ミルクのコクは充分。コーヒーとしてはバツ。(C)
後味: 悪い。(E)
総合的なコーヒー感: 劣。(D)
評点: 32.5点

原材料: 牛乳、コーヒー、砂糖、脱脂粉乳、乳化剤

総評
  評価がかなり広い範囲に分布した。理想の製品は、コーヒーらしい香りと口当たりがあり、適度な甘味と飲み応え、 まとわりつかない後味、といった感じのものだが、これらすべての要素を兼ね備えているものはない。 各社各様であり、品質改善に本気で取り組んではいない、安易なものを送り出しているメーカーもあるように思う。 その点で、元来コーヒーとは畑違いのKIRINの健闘が光る。 JT(日本たばこ)のROOTSは、コーヒー専業のKEY COFFEEとの共同開発で勝負に出ているが、 その肝心のKEYが、今回かなりの努力の跡は認められるものの、やはり基本的なコーヒーの味覚そのものが時代遅れの感がある。 これはDAIDOにも言えることだが、どうも先行組メーカーは、粗暴なパンチ力がコーヒー感と勘違いしているような気がしてならない。 この感覚は、わが国のコーヒー飲料のクオリティーが極めて低かった時代の名残であり、 今や街角のコーヒースタンドのクオリティも相当なものとなり、新規参入組の缶コーヒーも高クオリティである事実を考えると、 こういった脱皮できていないメーカーは、そのうちきっと消費者にそっぽを向かれるのではないかと危惧せざるを得ない。 消費者も、従来からコーヒーで名が通っているからと言う理由で製品を安直に選ぶようなことはゆめゆめしてはならない、と警告したい。 そのような安直な態度が、世の製品のクオリティを低める要因になっているのだから。

2000年11月26日
Phase.9 マクドナルド、ミスタードーナツ、そしてスターバックス〜大衆型飲食業における接客質とアメニティの比較研究〜

  スターバックスコーヒーの店員さんは、なぜ皆いつもにこにこ楽しそうな笑顔を向けてくれるのだろう。この素朴な疑問が本稿の始まりである。

  現在、わが国における外食産業の最大手といえば、言うまでもなく、日本マクドナルドである。ここまで大きくなったのには、当然それなりの理由があろう。 例えば、品質が常に一定しており、店舗や訪れる時間の違いによって味がばらつくということがない。すべての仕事が、完全にマニュアル化され、 製品のレシピや製造方法のみならず、接客態度のひとつひとつまでがいわば規格化されており、省コストが徹底されている結果、低価格が実現されている。 一方、低価格にもかかわらず、その品質は高く、多くの人にその味が評価されている。従って、 いまや全世界に通用するそのブランドネームは、信頼の象徴とすらなっている。このように、理由を数え上げれば、いくつもある。 これらは、私が個人的にマクドナルドを愛している理由でもある。

接客質‐マクドナルドとミスタードーナツ‐

  さて、ここで本稿のメインテーマである「接客質」に話を移そう。

  いつも変わらぬ応対をしてくれるという点は、確かに安心感はあるのだが、マクドナルドの接客態度に、「心」が感じられないのは、 私だけであろうか。どうも型にはまりすぎて、彼ら彼女らの応対には、ロボットのような冷血なイメージを感じてしまうのだ。 かなり以前からマクドナルドフリークだった私は、しかしこの点だけはずっと引っかかっていた。

  すると、ある時、次のようなエピソードを聞き、とても納得したことがある。それは、各企業における接客教育の違いという内容で、 マクドナルドとミスタードーナツを比較した話だった。

  ファーストフードチェーンでは、周知のとおりスーパーバイザーが定期的に各店舗を回り、品質や衛生管理、接客態度などをチェックしている。 マクドナルドでは、レジに立つ店員がしっかり笑顔で応対しているかどうかまでチェックし、よい笑顔をしていたアルバイト店員には、 スーパーバイザーがその場でカードを1枚渡す。そして、それが10枚たまると、海外旅行に連れて行ってくれるというのだ (かなり前に聞いた話なので、現在でもそういうことをやっているのかどうかは定かでない)。 つまり、我々に向けてくれているかに見えるあの笑顔は、実は彼女ら自身のためのものだったというわけである。

  一方、とある日のミスタードーナツの、とある店舗では、こんなことがあったそうだ。

  1人の女性が、商品を買うためではなく、「両替をしてほしい」とやってきた。それに応対した店員は、非常に丁寧に、 「お客様申し訳ございません。当店では両替は致しかねます。」と言った。彼の態度は、傍から見ていても、礼を尽くした丁重なものだったそうだ。 しかし、その一部始終を見ていたスーパーバイザーは、その店員を呼び寄せ、次のように叱ったらしい。 「あのような時は、ぜひ両替をして差し上げなさい。あの方は、当店ならばきっと対応してもらえるとお考えになって、 来てくださった。だから、今度もしドーナツを食べたいと思うことがあれば、きっと当店を選んでくれるお客様に違いないのだから。」

  このエピソードを聞いて、ミスタードーナツの店員の笑顔が、常に我々客に向いていることの理由がわかった気がした。 食べ終わったトレーを片付けようとすると、すかさず店員が駆け寄ってきてトレーを受け取り、「ありがとうございます。次回からトレーはそのままで結構です。」 と笑顔で応対してくれる。ミスタードーナツでこんな経験をされた方も多いだろう。しかもそれは型にはまりきった態度ではなく、極めて臨機応変な対応なのだ。 マクドナルドでも確かにトレーを受け取ってはくれる。しかし、客が片付けようとしたその場に居合わせた時だけだ。 つまり、客の動向にくまなく目を配っているとは言いがたいのである。ミスタードーナツではまた、窓ガラスを実に楽しそうに拭く店員の姿を見ることもできる。 いかにも自分の仕事に誇りを持っているようである。このような態度が徹底されているところに、その接客教育の質の高さが伺われるのである。 多分それは、「お客様に奉仕することが、接客業の基本」というような理念の現れなのであろう

スターバックスにおけるアメニティ

  さて、最近私が最も気に入っているスターバックスコーヒーでも、ミスタードーナツと同じような心地よさを感じることができる。 しかしそれは、ミスタードーナツのように高邁な理念に基づいた仕事というより、むしろクラブ活動のような楽しい雰囲気で、やわらかく接客してくれるのだ。 我々部外者からは、その本当のところをうかがい知ることは出来ないが、おそらく彼らは皆、スターバックスで働いていることを誇りとし、かつ楽しんでいるのだろう。 そのような会社を他業界でも本当に稀に目にすることがあるが、決まって社員を大切に扱っている会社であり、しかも先進的なことをやっているのである。 自分の仕事に、属する組織に、誇りを持って生き生きと働いている人の為す仕事は一流であり、しかも人の温かみが伝わるものである

  力を抜いた人間味のある接客。そして商品の確かなクオリティ。ここまででも素晴らしいのだが、更に特筆すべきは、店が空間として醸し出している何ともいえないアメニティである。 もちろん接客態度といったソフト面から来るものもあるのだが、それ以外の部分、例えば内装のお洒落さ、心地よい音量で流れる音楽、適度な照明、ブランドイメージに則ったグッズ類、 店内全面禁煙の英断など、視覚、聴覚、嗅覚に訴える部分が、極めてソフィスティケートされている。これは、今までのこのようなチェーン店になかったものである。 安ければいい、美味しければいい、といったある種徹底した傲慢さを醸し出す世の多くのチェーン店とは、一線を画している。これこそが、多くの人を惹きつけてやまない スターバックスの魅力ではないか。

  日本マクドナルド社長の藤田田氏は、いわば徹底した商売人である。あそこまで強力にポリシーを貫き通せるのは、やはり一流のビジネスマンなのだと思う。しかし、私は個人的に言うと、 あのようなタイプの人には決して共感を覚えない。冷たく、空しいものばかりを感じてしまうのだ。

  本当に良いものを安く提供することに挑戦しているマクドナルドは、いわば結果追求型企業であり、 それに対し、ミスタードーナツは、理念(又は精神)追求型企業だと思う。どちらが素晴らしいということではなく、目指すものが違うのだ。 そして、スターバックスは、その両方を兼ね備える、新しいタイプの巨大企業、いわば「理念・結果融合企業」である

  今までは、「均質化した商品を安く安定的に供給することで信頼を得る大企業」と、「顧客のニーズにきめ細かく対応し、しかも細部にもこだわりを持つ中小企業」の 2パターンが、生き生きと繁栄する会社の象徴であったが、これまで大企業では成し得ないと思われてきた細部のこだわり、本物志向、臨機応変な接客、といったことを、 スターバックスは達成している。これは驚愕に値することだ。それは、おそらくスターバックスという会社の根底に、事業に対する大きな夢とかロマンがあるからに違いない。 しかもそれは、「利益追求」とか「業容拡大」の先にあるものではなく、「美しさ」とか「安らぎ」の土台にある人間的感性に根ざしているのだ。 私は1人の客として、それを日々肌で感じ取っている。

  似たような店はこれから増えるだろうが、所詮ものまねであり、スターバックスの優位性は、当分揺らぎそうにない。C.E.O.ハワード・シュルツ氏の書いた次の言葉を読んだとき、 私はこの思いを、いっそう強くした。私の持つ価値観と、非常によくシンクロしたからだ。

  『夢想家には、ほかの人たちと違うところが一つある。夢を追う人は単調な日常生活とは全く異なる魅力的な世界を創造しようとする。われわれも同じように夢を追い、 自分たちの店の中にオアシスを創造しようとしているのだ。』
(Howard Schultz, Dori Jones Yang著、小幡照雄, 大川修二訳「スターバックス成功物語」日経BP社、1998年 / P.13より)

スターバックスを凋落させないために我々ができること

  今後スターバックスが凋落してゆくことがあるとすれば、きっかけは次のいずれかであろう。
  1.あまりにも巨大になりすぎて、細部に血の通わない大企業病にかかってしまい、崇高な理念の徹底が事実上困難となる。いわば自滅である。
  2.企業としての理念はいささかも変わらず隅々まで徹底されているが、あまりにも多店舗化してしまったために希少性がなくなる。しかも大衆化するということは、 本質を理解しない「安っぽい」顧客の比率が高まることを意味するので、大衆の意識の中で「スターバックスは陳腐化した」というイメージが一方的に醸成されてしまう。いわば理不尽な他殺である。

  本当に恐いのは2.の方であり、それゆえ私は、最初はどんなに素晴らしい店であろうとも、普通は多店舗化した段階で「終わった」と感じてしまうのだ。

  この危険を回避するための最も有効な方策は、ただ一つ。現在のような無節操とも思える増殖を慎み、出店場所を厳選し、我々客がわざわざ訪れることの喜びを持ち続けられるような店であり続けることである。 お洒落な店、言い換えれば晴れ舞台は、それ相応の街になくてはならない。ブランドショップや美容室などを考えてみればいい。どんなに素晴らしい商品、サービスを提供したとしても、 郊外の庶民的な駅前商店街の中にあっては、価値がないのだ。この点は、我々客の側ではどうしようもないことであるが。

  一方、我々客も、いくら近所にできたからといって、例えばスエット姿で、サンダル履きで、コーヒーを飲みにゆくようなことをしてはならない。 お洒落な若者だけの店にせよと言っているのではない。どんな年齢層の客であっても、訪れること自体が既にしてファッションなのだと心得ることである。 店の「敷居の高さ」は、本当は客が作るものであり、それが維持されない店は、 大衆化という名の死へ向かうだけなのだから。

  日用品を扱うスーパーならば、それでもいい。しかし、生きるために直接的に必要ではない嗜好品だからこそ、ロマンを色褪せさせてはいけないのだ。

2001年2月5日
Phase.10 スタバとスタバ・ファンへの私の謝罪

  以前、当コーナーのPhase5において、スターバックスを評して、次のような表現をした。

確かに「いま流行り的」スタイルをしているし、客層も軽はずみな感じだ。 コーヒーのクオリティも、まあ某有名180円チェーンよりは少しはましかな、という程度。また値段も、高くはないが、そこそこする。中途半端な感じだ。

  この時点では、私は正直なところ、まだスタバのコーヒーを味わい尽くしていたとは言えない状況であった。 にもかかわらず、このような表現をした背景には、やはり、流行のチェーン店というものに対する先入観が完全には払拭されてはいなかったからだ。

  ここでその非を認め、スタバ関係者と全国のスタバ・ファンにお詫びを申し上げたい。

  あれからスタバの色々なメニューを試す中で気づいたことは、バリエーションのベースとなるエスプレッソやドリップコーヒーの質が、実に高いということである。 最近では、COD(本日のコーヒー)が私の大のお気に入りとなった。特に、カフェ・ベロナと、ゴールドコースト・ブレンドが好きだ。

  一般的なファースト・フード店やドーナツ・ショップ、ファミレスはおろか、180円コーヒー・ショップでも、コーヒーが煮詰まっていたり、酸化していることが極めて多い。 しかし、スタバでは絶対にそんなことはないし、そもそも豆のクオリティが格段に違う。私は元来、深煎豆のネルドリップが好きなので、 あまりにも手作り、1杯だてということにこだわり過ぎている嫌いがあり、ややもすると機械抽出を蔑視する傾向があった。しかし、出来上がった製品のクオリティを冷静に評価すれば、 スタバのドリップコーヒーは、普通の喫茶店の普通のクオリティのものよりも数段上である。最近はそれを確信している。

  普段はCODのほか、エスプレッソ・マキアートを飲むことが多いのだが、たまにカプチーノを飲むと、とても感動する。ぜひ、最初に蓋を取って香りを楽しんでいただきたい。 フォームミルクから立ち昇る、あの、めくるめくようなミルキーで甘い香り。とっても幸せな気分になること請け合いである。

  もちろん、Phase9でも書いたとおり、お洒落で、非日常的で、かつ居心地の良い雰囲気も大きな魅力である。

  今年の元旦、つまり21世紀の最初の日、近所の神社に初詣に出かけた後、家族でお茶を飲みに行こうということになった。おそらくどこも開いていないだろうと思いながら、 期待せずに駅前の繁華街にくり出してみた。すると、確かに数店舗が営業しているのみであったが、その中の1つがスタバであった。すぐさまスタバに入ったのは言うまでもない。 しかも、3が日とも夜11時まで営業しているというではないか! 正月のように、和風の食事に傾きがちな時こそ、外でコーヒーが飲みたくなるものである。 このようなスタバのカスタマー寄りの姿勢に敬服すると共に、改めて、自宅の近くにスタバがあることの幸福を、最近の私は実感している。


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