時事ネタコラムのページ [利酒日記別室]

2009年9月


2009年9月6日
 地元大阪ネタ


 自民・公明両党の支援の下で誕生した橋下大阪府知事が、 総選挙前に、早くも民主党支持を表明していた。 それに対して、両党から「あまりに非礼ではないか」との声が上がった。

 当の橋下知事は、「地方分権により熱心な党を支持する」と明言していて、 その基準で支持政党を明確にしたとのことで、 今後とも是々非々の態度で臨むとも語っている。

 当選させてあげた(と自公両党はたぶん思っている)のに、恩知らずな態度は許せないという 気持ちもわからないではない。いや、人間としては当然そう思うだろう。 橋下氏の行動が、情勢を見た上で単に勝ち馬に乗っただけのことであるなら、 非難されてしかるべきものだろう。

 そうではなく、真剣に地方自治のことを考えて、 良いことは良い、悪いことは悪いと、一つ一つまさに是々非々の態度で判断しようというのなら、 私はその点は評価する。

 だが、橋下知事の考える政策には、私は基本的に賛同しかねる部分が多くある。 これまでも多々述べてきたが、ハッキリ言えば、かなり嫌悪感さえ感じている。

 知事の唱える大阪府庁のWTC(南港地区)移転には反対であるし、 なぜあそこまで関西空港にこだわるのかもわからない。

 府庁の土地を売却、移転すれば、目先の金を手にすることはできるかもしれないけれど、 現府庁舎周辺地域が被る損失は莫大なものがある。 都心部の空洞化は、そのまま都市の活力を阻害し、 ますます大阪の地盤沈下を促進するだけの結果しかもたらさないはずである。

 先日はまた、伊丹(大阪空港)を売却して、その資金で関空直通のリニアモーターカーを建設したいなんて 考えを表明したが、とんでもないことである。 利用者の利便性を考えれば、関空をこそ廃止して、神戸に集約したほうがいいくらいだと私は思う。 エアライン各社が、相次いで関空便を減便、あるいは廃止していることが、 その需要のなさを物語っている。それが市場の評価なのだ。

 道州制、道州制と、呪文のように唱えられていることも、 本当に生活者にとって良いことなのか、真剣に考えたい。

 我々は国政だけでなく、地方首長の掲げる政策も厳しく監視し、 自らの生活を考えたいものである。



2009年9月26日
 民意って何だ


 問題となっている八ツ場ダムの現場(群馬県長野原町)を、前原国交相が視察に訪れたとき、 地元との意見交換会を持とうとしたが、住民がそれを拒否した。 その一件があったあと、長野原町役場あてに一晩で約4,000件のメールが届いたと、新聞で報じられた。

 その約8割が、地元住民に対して批判的な内容だったといい、 「対話拒否はおかしい」「(民主党が選挙に勝ったという)民意に背くのか」 「ダムが中止になったのに、なぜ喜ばないのか」といった意見が多く、 中には「ごね得」「非国民」などという中傷もあったらしい。

 言うまでもなく、選挙で民主党が勝ち、政権交代を果たしたからといって、 すべての国民が民主党に全権を白紙委任したわけではない。 いくら選挙公約だからといって、現場の方々に会う前から既に建設中止を決定したかのような 態度で臨んだ前原大臣の姿勢は、やはり横暴と言われても仕方がない。 政権与党には、それぞれの政策について、是非を慎重に吟味した上で、実行に移す義務がある。

 それにしても、時の権力の意向に反する言動をした人に対する一方的なバッシングが、 あいかわらず多いことには、辟易する。 特に呆れるのは、多くの支持を得て勝った政党のとる行動を、「民意」という単純な言葉に すり替えている、その狡猾さである。

 「私の意見ではない、皆がそう言っている」とか、 「そんなことは世間が許さない」などという発言を、しばしば耳にするけれども、 私はそういった発言が大嫌いである。自分の発言の責任を自分で取らないで、 「皆」とか「世間」のせいにしている。自分の意見を一人称の「私」で語らず、三人称に置き換える。 一番卑怯な手合いである。

 きっと、相手の立場に立って物事を考えるということが、できない人たちなのだろう。 長年にわたって国の政策に翻弄されてきた地元住民の立場など、 わかりもしないし、考えようともしないのだろう。 地元住民の方々の、一見反抗的に思える姿勢が単に気にくわないから、 その個人的憤りを、「民意」などという言葉にすり替えているだけなのである。

 有無を言わさず八ツ場ダム建設を中止せよというのが、「民意」ではない。 治水、利水の両面からダム建設が必要なのか否か。 国民にとってどちらが利益のあることなのか。慎重に検討されなければならない。 「公共事業は何でも悪」と言わんばかりであった過去の自公政権の過ちを、繰り返してはならないのである。

 ちなみに、「ここまでお金を掛けてきたのだから、ここで建設中止したらもったいない」という意見もあるが、 それは経済学的には誤りであることを、指摘しておきたい。 既に支払ってしまった費用は、サンクコスト(=埋没費用)といい、 今後の意思決定には何らの意味をも持たない。 もう支払ってしまった費用は今から取り返すことはできないのであって、 考えなければいけないのは、今後も更に追加投資をすることがプラスなのか、マイナスなのかというその一点のみである。 追加投資が、更なるマイナスしか生まないのであれば、 たとえ完成間近までつくってしまったものでも、即刻中止をするのが正しい判断なのである。

 ここで止めたらもったいないから建設を続行すべきなのではなく、 建設することが最終的に国民にとってプラスになるのなら、建設をすべきなのである。 マイナスになるのなら、どんな段階であっても、建設は中止すべきなのである。

 与党民主党には、そういった客観的な見地から、建設の是非を慎重に検討していただきたい。 そして、いくら自民党がやってきたことだからとはいえ、 「我々民主党の責任ではないから」といった態度ではダメだ。

 まずは国のこれまでの姿勢について、地元の方々に対して謝罪すべきは謝罪して、 地元の方々の生活再建を第一に考え、対応してもらいたいものである。

2009年9月29日
 教育は、勝ち負けではない


 2009年度全国学力調査の市町村別結果について、大阪府では、7市町が昨年度に引き続いて自主公表しない 方針であることがわかった。

 全国学力調査は、07年度から全国の小6と中3を対象に、国語と算数(数学)で行われているもの。 自公政権下で始められたものであるが、民主党は、今のような全数調査ではなく、抽出方式に改める方針を示している。

 大阪府の橋下知事は、以前から結果を全面開示すべしという態度であり、公表を渋る自治体をしばしば批判 (いや、罵倒と言っていい)してきた。

 そもそも市町村別に結果を公表することに、一体何の意味、目的があるのか。 教育の場にも競争を、というのが、橋下知事の持論だが、私はまったく賛成できない。

 このような調査結果を詳細に公表すれば、どんなことになるか。 既に実際に起こっているように、全国ではどの都道府県が上位だとか、下位だとか、 結局「勝ち負け」の話になってしまっている。 序列を出せば必ず勝者、敗者が出てしまうわけで、 まったく不毛な議論に陥ってしまうだけである。

 順位が低かった都道府県、市町村はどうするか。順位を上げるためには手段を選ばなくなるだろう。 既にそうしている県があると報道されているが、児童生徒に「過去問」を徹底的に勉強させて、 とにかく得点を上げようとする。それが真の教育でないことは、自明である。

 こどもたちの習熟度を見たいのであれば、民主党の主張するように、 抽出調査で十分である。それによって、どの分野の平均学力が高いのか、低いのかを知ることができれば、 今後の教科書の編纂などにも大いに参考になる。

 橋下知事は定例会見で、「市町村の方針にかかわらず、市町村別結果の開示を決めている。 公にすることで、各教育委員会が保護者らに責任を持つようになる。デメリットは感じていない。」 と述べている。

 順位を出せば、その結果に発憤して、教える方も、教えられる方も、より一層頑張るだろうというのが、 知事の考え方のようである。一見、正論のように見えるが、 このような考え方は、「人に勝つ」ことが素晴らしいことで、その力をつけさせることが教育だと 勘違いしている人のものである。 人と比べることでしか、自分の存在意義を感じられない、寂しい人のように、私には思える。

 言うまでもなく、人間の存在意義は、他人に勝てるか否かという所にはない。 と、こういうことを言うと、「それは理想論。お前は甘い」といった反応が返ってくるに違いない。 だが、人と比べ、人に勝ったと言ってそれを自慢するような人間を育てることが、 教育などでは断じてない。私はそう思う。

 あの都道府県、あの市町村は出来がいい、悪いなどと比べたがるのは、 悪趣味以外の何ものでもない。出来が悪いとされた市町村の教育委員会は、 教師にハッパをかけ、順位を上げることを至上命題とするであろう。 そんなことで、本当の教育ができるとは思えない。

 近年は、何でも勝ち負けで論じられることが多くて、辟易する。 競争に勝てないヤツは本人が悪い。すべて自己責任といった言説が横行している。 随分とハシタナイ世の中になったものである。そういう発言を、臆面もなくする人を見ていると、 薄っぺらいなあと思ってしまう。人と比べるのではなく、 人はどうあれ、自分の限界に黙々と挑戦できる人を育てるのが、真の教育だと思う。

 私も子を持つ親の一人だが、そういう方針で、我が子に接している。



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