時事ネタコラムのページ [利酒日記別室]

2020年06月



2020年6月2日
 2種類の人間


 緊急事態宣言が解除され、各地で店舗の営業時間が徐々に延長されたり、 動物園や博物館がオープンするなど、着実に社会活動があちこちで再開されている。

 宣言発令前の自粛要請期間も含めると、実に2か月以上も行動が制限されていたわけで、 まだまだ全面解禁とまではいかないものの、人々が徐々に街に繰り出している。

 自粛期間中はテレワークなども進み、家に籠もる生活が続いていた。 元々会社勤めではない私も、会合がなくなったり、講師の仕事がなくなったりして、普段以上に外出する機会が減った。

 そんな中、気づいたことがある。 これは、私自身の内なる気づきでもあり、他の人たちの様子を見ていて気づかされたことでもある。

 物事を二項対立で考えることが極端に嫌いな私ではあるが、 このような非常事態になると、人間は大きく2種に分けられるのではないかと気づいた。 即ち、「家にずっと居ることが堪えられない人」と、「家にずっと居られる人」の2種である。

 前者は、ニュース番組などでインタビューを受けている人たちを見ればわかる。

 デパートに久々に買い物に訪れ、「毎日家にいてやることがなかったので、やっと来られて嬉しい」と笑顔の人。 映画館で久しぶりの映画を見て、「この日を待っていたので、感動して言葉になりません」と感無量の人。 どの人も、家に籠もっているのが辛かったんだろうなと、即座に分かる。

 一方、後者は報道されず、話題にも上らないが、「べつに今すぐ行かなくてもいいや」と思っている人たちであり、 むしろ「ずっと家にいられて気が楽だった」と、口には出さないが感じている人たちである。

 実は、私は、後者の人間であるということが、よくわかった。家にいることがべつにストレスでも何でもないのだ。 いやむしろ、外に行くことがストレスであったということに気づかされた。

 TVを見ていると、緊急事態宣言中にも開店していた数少ないパチンコ店などに行き、「たまには息抜きしないと、ストレスが溜まる」 「家にばかり居ると、イライラして気が狂いそうになる」などとインタビューに答えている人たちがいた。 しかし、そんな様子を見て、私はその気持ちをまったく理解できなかった。いや、頭では理解できても、決して共感することはできなかった。 そんなふうに、「何としてでもどこかに行きたい」などと思ったことが、私にはないのだ。

 もちろん、普段買い物をしている店が臨時休業になり、必要なものが入手できなくて不便を感じたことはあったが、 逆に言えば、必要なものが身近に揃っていさえすれば、店に行きたいとは思わない。 普段は「食べ歩き好き」を自認していたはずなのに、行かなくなってみると、それがべつに寂しいこととは感じない。 人に誘われて食事や飲みに行くことも決して嫌いではないが、行かないからといってどうということはない。

 私の普段の行動を知る人たちは、私のことをたぶん相当に社交的な人だと思っているかもしれない。 若い頃から異業種交流会などに積極的に参加し、色々なところで講師役を務め、学校の教員もしている。 人前でしゃべることがおそらく得意な人と認識されているようである。

 だが、このようなキャラクターは、自ら意図的につくりあげたものである。 子供の頃は人一倍引っ込み思案な性格で、いじめられたり、相当に損をしてきたと自覚している。 そんな自分がイヤで、積極的に前に出るように、自らに強要した。 それが板につき、社交的なキャラとして周りの人に認識されるまでになった。

 そうして自分でもすっかりそういう類の人間だと自認するようになって、何十年も過ごしてきたわけだが、 今年のこの非常事態で、人と接する機会が極端に減った結果、家に籠もっている時間が、 実は一番自分の心を解放できる時間であることに改めて気づいたのだ。

 もちろん、ここには重大な背景がある。家に家族がいるということだ。 家族といっても妻一人だけだが、こんなに毎日一緒にいて同じものを食べ、会話をするということが、 心穏やかにしてくれるとは、改めて気づいたことだ。なんだかのろけているみたいで恥ずかしいが、 べつにこのままどこにも行かないで家にいてもいいや、とすら感じている。 一人暮らしだったらこんなふうには思っていないかもしれないが。

 私にとって、外に出て他人に接するということが、実は大きなストレスになっていたことがわかった。 こういう人は多数派ではないかもしれないが、決して少なくはないはずだ。 でも、こういう人は、普通こうして声を上げたりしないので、目立たず世に認識されていないだけだ。 同志はきっとたくさんいるはずだと思う。

 今回のことで、自分自身だけでなく、他人を見る目もまた変わったのだが、 それはまた後日白状することにしよう。


2020年6月6日
 災厄の中の唯一の光明


 新型コロナウイルス感染症の流行という非常事態を全世界が経験し、明るい年となるはずだった2020年が暗く沈んでいる。 死者、感染者が増大し、どう抑え込み、どう対処していくのか。いまだ戦いの途中である。

 国を挙げての対応に、各国は奮闘しており、明暗も分かれている。 日本国内でも各地域で首長を先頭に、様々な対策が打たれているが、残念ながら地域差も生まれている。

 このような事態になって、図らずも露呈してしまったこと。それは、政治家をはじめ、 リーダーたちの能力の差である。

 リーダーの能力とは何か。 私が思う優秀なリーダーとは、「自らの本分」をわきまえ、自らに課せられたミッションを確実に遂行できる人である。

 感染症のことは、その道のプロにしかわからない。 医療現場のことは、実際にその現場に携わる人々の意見を聞かなければ対処できない。そのための組織化は絶対に必要だ。

 感染拡大の阻止のためには人々の行動をどうしたらいいのか。医療崩壊を防ぐためにはどうしたらいいのか。 各々プロの意見を聞き、門外漢ながらも一生懸命に勉強して理解しなければ、リーダーとして必要な施策の立案はできない。

 決してしてはならないのは、素人だから理解不能といって聞くこと学ぶことを放棄し、 それでいて自らの責任回避のために専門家を呼びつけて矢面に立たせ、統率を放棄すること。 そのような人には、リーダーたる資格はない。

 有能な人とは、逆説的であるが、自らの無能を自覚している人のことである。 無能を自覚するからこそ、それでは自分は何が出来るのか、何をすべきなのかが理解できる。 そこから分業の必要性を本当に理解し、任せるべきことを、しかるべき人に任せることができる。 統率力とは、差配の能力とも言える(※注)。

※注:私自身のことを白状すると、私は自分が無能であることは自覚しているつもりだが、その本分をわきまえた行動が苦手である。 つまり、自分の興味が湧いたあらゆることを、すべて自分でやらなければ気の済まない性分なのである。 一言でいうと人に任せることが出来ないし、自分一人で出来ればそれが稚拙でもある程度満足してしまう。 このような人は、リーダーには不向きである。大きな仕事も出来ない。人の上に立てる能力がなく、さりとて人の指図にも従いたくないから、 会社組織などにはそぐわない。その自覚があるので独立開業をしたが、組織の長たる能力はないので人を雇わず、 フリーランスでいることを貫いている。だから、他人を雇っている人にも、ずっと雇われ続けている人にも、 どちらに対しても尊敬の念を持っている。

 今回の非常事態で、本当に優秀なリーダーとはこういう人という姿が見られた一方で、 こんな人がトップを名乗ってはいけないという人が平気で自慢げに居座っている姿も色々と見せつけられた。 優秀なリーダーに恵まれた人たちは幸運であるし、そうでない場合は不幸である。

 感染症の流行という人類にとっての脅威が、人間の能力の有無、その場の適不適をあぶり出した。 それが、災厄の中の唯一の光明と言えるかもしれない。


2020年6月27日
 続・2種類の人間


 当ページ6月2日付で「2種類の人間」との一文を書いた。 世の中には「家にずっと居ることが堪えられない人」と、「家にずっと居られる人」の2種類の人がいるのではないかという内容である。

 そして私自身は後者の人間、すなわち「家にずっといられる人」であると書いた。 ずっと居られるどころか、ずっと居ることが快適であり、もしかすると外に出るということがストレスになっていたのではないか。 そういう気づきである。

 これは自分を見つめた、いわば内省的な発見なのであるが、 他者を見ていて気づいたこともある。

 感染症流行で外出自粛を余儀なくされ、多くの人がストレスを抱えているのは事実ではあろうが、 そのイライラを抑制できず、態度に表れてしまう人をしばしば見かけた。 店で何か気にくわないことでもあったのか、店員に食ってかかる人。 駅のホームで他者と何かトラブルがあったのか、罵声を浴びせる人。

 その一方で、こんな非常事態で誰しもが色々な制約を強いられているはずなのに、 平常時と変わらず他者に優しい態度で接することができる人もたくさんいる。 狭い通路ですれ違うのは気分の良いものではなかろうと思い、 立ち止まって向こうから来るのを待っていたら、深々とお辞儀をしてくれた人。 そういう人に巡り会うと、この国はまだまだ大丈夫と思えた。

 そして、自身の行動を、もう一度客観的に見直そうと思った。 自分の感情をちゃんと抑制できているか。人に当たってはいないか。 人のせいにしてはいないか。

 病気の流行や、それに伴う様々な制約は外生的なことであるが、 それをどう受け止め、どう行動するかは、すべて自分の内側のことである。

 常に自分を外から見、他者の置かれた立場に思いを致すことのできる人でありたい。



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