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我如何にして葡萄酒狂徒と成りし乎
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 学生時代、酒はあまり好きではありませんでした。特に、ムチャな飲み方をするコンパなどが嫌いで、それでもその場の勢いに任せては、つい飲みすぎ、道端で吐いたりすることもしばしばでした。当時、底無しに飲む友人と比較して、自分は酒が弱いんだという自覚を持っていました。

 本格的に、しかも自主的に飲むようになったのは、社会人になってからでした。スノビッシュな趣味を持つ先輩に教えられたアクアビットとかスピリタスといった強いお酒も、当時はあまり関心がありませんでした。自分が後にそういったものまで、積極的に飲むようになるとは、その頃には思いも及びませんでした。

 最初にハマッたお酒は、ウイスキーでした。

 飲み口の柔らかいスコッチウイスキーに魅せられて、バランタイン12年、シーバスリーガルといったブレンデッドウイスキーのメジャーどころを好んで飲んでいました。ちょうど並行輸入ものが多く出回り始めた頃であり、若造の身でも、ボトルで購入することが可能でした。もちろん、たくさんの種類を買うことは不可能でしたので、もっぱらカウンターバーなどでショットで注文するというパターンが中心ではありました。

 スコッチもだんだん飲みなれてくると、幾分、ツウ気取りになってきます。当然の流れとして、モルトウイスキーへと移行します。シングルモルトの中でもキャンベルタウンモルトがお気に入りで、ストレートで、チェーサー(水)は付けず、つまみなども一切口にせず、ひたすら酒の味を堪能することが好きでした。

 スコッチの甘さがだんだん鼻に付くようになってくると、次は、バーボンです。

 当初、グレーンウイスキーの香りがあまり好きになれなかったものの、比較的飲みやすいところから試してみると、スコッチには無い後味に、独特の魅力を感じるようになりました。まあ、最初は有名どころのローゼズとかジムビームから入るわけですが、次第に、もっと癖の強いものに移ってゆきます。ターキーとかジャックダニエル(これは、正しくはバーボンではなく、テネシーウイスキーなのだけれど)を注文することがカッコイイというようなミーハー的な飲み方もしていました。でも、一番好きなのは、ブラントンでした。

 スコッチの甘ったるさと、バーボンの癖の強さの両方に飽きると、次は、それらのハイブリッドとも言うべき、カナディアンウイスキーに興味が移りました。入門編は、誰もが知っているカナディアンクラブ(通は、CCという)ですが、最も気に入っていたのが、クラウンローヤルです。そう、あの紫の布袋に入ったボトル。これも並行輸入のおかげで、それまでの1万円以上という高値から、一気に4000円台くらいまで下がっていました。でもこれは、外でたのむと、結構高くつくものでした。(つい最近、近所のスーパーで1580円で売られているのを見ました。隔世の感がありました。)

 ウイスキーをせっせと買っていたその頃、実は、同時にワインにも手を出すようになっていました。しかし、その当時、ワインはまだ自分にとって近しい存在ではありませんでした。なんだかとてつもなく奥が深い気がして、「きっと最後はここにくるんだろうな」という予感めいたものと共に、味のわからぬワインを、たまに試す程度でした。

 そうこうするうちに、興味は、ブランデーへと移行します。

 なんといってもコニャックの高貴な香り、そして芳醇さには底知れぬ魅力がありました。レミー、ヘネシー、カミュ、オタール、クルボアジェ・・・有名どころはほとんど試しました。ただ、これは予算の制約がキツイので、カミュのVSOPが、自分の手の届く、精一杯の贅沢でした。一度だけヘネシーのXOを人に飲ませてもらった時には、やはり「目から鱗状態」でした。こんなに素晴らしい酒がこの世にあったのか、という純粋な感動です。金額にだまされるような愚かな人間ではないつもりでしたが、高いからおいしいという錯覚があることも、完全には否定できないでしょう。

 コニャックは確かに素晴らしい酒なのだけど、あまりにも成金趣味的であり、私はそういうのをカッコ悪いと思うタチであるし、そろそろコニャックも全貌が把握できたかな、と感じ始めた頃、興味はブランデーでもアルマニャックの方に移って行きました。

 これは、酒屋でもマイナーな部類の商品であるし、飲み屋に行っても、あまり置いてはいません。あったとしても、最も有名なシャボーくらいです。それでも、そういう酒を選んでいるという少数派的感覚がスノッブ心をくすぐり、しばらくの間は没頭しておりました。と同時に、マールやカルバドスなども好きになって行きました。

 ブランデーを飲みつづけるというのは、やはり庶民にとっては楽なことではありません。それに、ひと通り経験してしまえば、わりとわかりやすい酒なので、次なる興味は、スピリッツ系へと移って行きます。

 ホテルのバーなどでカクテルを注文する、というのも楽しみの一つでしたから、その延長線上として、カクテルのベースとしてよく使われるウオッカやジンをストレートで飲むようになりました。でも、猫も杓子も飲むようなズブロッカなどに興じたりはしません。ウオッカよりは、普通の人があまりストレートでは飲まないようなラムとか、テキーラの方を好みました。特にラムは、ロンリコやレモンハートの151プルーフ(75.5度)がお気に入りで、火をつければよく燃えるような液体を、ストレートで喉に流し込みます。究極はスピリタスで、これはもうエチルアルコールそのもの。

 こういった強い酒は、やはりカウンターバーなどで粋に飲むからおいしいのであって、ボトルを買いこんで家で一人で飲んでもあまりおいしくないのだというのを悟ったのも、この頃でした。

 そしてついに、次の行き場がないことに気づきます。いよいよワインに行かなければダメかな。そう観念しはじめます。

 私にとってワインは、最後の、そして際限の無い蟻地獄のような相手でしたから、一体全体どこから攻めて行けば良いのか、それすらわかりません。しかし、ウイスキーに興じていた数年前から、たまに飲んだワインの感想などをラフにノートに書きとめるという経験をしておりましたから、その線で、論理的に攻めてゆこうという戦略は立ちました。

 正直に告白すれば、やはり最初は、赤の重いものは苦手でした。最初においしいと感じたのは、辛口白でした。中でも、少し奮発して買ったプイィ・フュメには感動し、それ以来、ロワールの白を探し始めます。

 当時は、まだ基本的な知識すらありませんでしたから、行き当たりばったりで購入したものを、ただなんとなく味わってみるというやり方でした。そのワインの特徴なんて、だいたい他を知らないんだから、つかみようがありません。そういった中で、とにかく経験を積み重ねて行くしかないな、これはゴールの見えないマラソンになるな、という気持ちを強めてゆくのでした。

 ワインを真剣に攻略しようとしたら、やはり基礎的な勉強は欠かせません。どうせやるなら、一般人に向けて面白おかしく書かれているような読み物ではダメだと考え、ソムリエ試験受験のための本を何冊か熟読しました。それはもう、真剣そのものです。フランスの地図を開き、だいたいの地名と位置を把握します。主要なAOCも、片っ端から覚えて行きました。勉強するのなら、そこいらの人には絶対に負けないくらいにしよう、というのが私のポリシーでもあります。

 理論(本による学習)と実践(飲んで確かめる)の両輪が揃うと、知識もより定着して行きます。決してソムリエやワインアドバイザーになろうなんて思っているわけではありません。あくまでも素人の単なる酒飲みです。ただそうやって没頭することが楽しいのです。これは、一生変わることのない私の性癖でしょう。(どうせホームページを作るなら、ドメインをとってしまおう。どうせHTMLを勉強するなら、DHTMLを使えるようになろう、などと考えてしまうあたりにも、その癖は出ている)

 そんな中、世はまさにワインブームとなり、それまでとても手が出ないと思われていたものも、かなり安く手に入るような状況となりました。これはまさに追い風。未経験のAOCを、片っ端から試してゆきました。無論、有名シャトーなどには手が出ません。とにかく最初は、地域の特徴らしきものさえつかめればそれで良いと割りきった上で、数をこなしていたのでした。

 そして、今現在もまだその途上です。きっと、「もっともっと知りたい」という欲望に終わりはないのでしょう。

 もし、高価なワインに情熱を燃やしていたならば、早いうちにその熱は冷めていたかもしれません。経済的に継続が不可能という理由ももちろんありますが、お金さえ出せば経験できるようなことにうつつをぬかし、お金をかけていることに満足して、それを自慢するようなことは、私の最も忌み嫌うところであります。

 純粋に好きなものに打ち込んでいたい。その成果を日々自ら実感したい。そして、そのように没頭できるものをどんどん増やし、いつも楽しく過ごしたい。

 そんな単純な動機のもとに、ワインを探求し続けているのです。

−おわり−